舞台を旅したい
沖縄の共同売店に行きたい
ドラマでも度々登場する「共同売店」は、食品から生活雑貨、文具、おもちゃまで何でも揃う現代のコンビニのような存在でした。必要なものを必要な時に必要な分だけバラで買えたり、他愛もない話をしたりと、地域の助け合いの拠点として沖縄で今もなお愛されています。
「でも那覇やリゾートホテルの周辺では見なかったけど…」という人も多いのでは?実は共同売店にはこんな歴史と機能があるのだ。
モノが少ない時代、やんばるや離島の暮らしを支えた
今ほど流通制度や交通機関が整っていない時代は、ちょっとしたモノを買うのもひと苦労。自家用車でひょいっとスーパーへというわけにはいきません。そこで集落単位で各家庭が共同で出資して運営を行う、生活協同組合のような組織体が明治の終わりに生まれました。沖縄県内で最初の共同売店は、国頭村奥に誕生した「奥共同売店」。単なる商店というよりも、むしろ「コミュニティビジネス」というイメージが近く、例えばやんばるの山から切り出した薪や木炭などを船で与那原・那覇などの都市部に運んで売り、利益を出荷量に準じて分配したり、帰りに仕入れてきた食品や日用雑貨を集落の人々に販売したり。商品は売掛(ツケ)で買えて現金収入があった時に払えば良いなど、お互いによく知っている間柄だからこそ可能な助け合い精神で切り盛りされる企業のようなものでした。
現在はそういった経済活動的な面は薄れ、沖縄全体で200店舗以上あったとされる共同売店は70ほどに減っていると言われます。それでも、やんばるや離島に行けば、暮らしに必要なものは一通り揃う便利な存在であり、コミュニティの憩いの場でもあります。やんばるを旅する時は、ぜひ共同売店に立ち寄って、特産品やオリジナルグッズを買ってみてはいかが?
共同売店発祥の地はココ!〈奥共同店〉
目玉商品は日本一早くとれる新茶!
国頭村の奥は、沖縄本島最北端の集落。緑生い茂る山の裾野には古い赤瓦屋根の民家が密集しており、訪れる者をノスタルジックな気分にさせてくれます。
「ここは共同店制度を始めたいちばん最初の集落。1906年創業です」と話すのは「奥共同店」の経営を預かる「主任」の宮城文雄さん。
1906年といえば明治39年、琉球王国が沖縄県になってまだ27年という時代。宮城さんによると、奥共同売店の主任は任期制で、2年ごとに選挙(!)で選ばれるそうです。
「手を挙げる人がいなかったら民間に委託するという話が出たから、経験は無いけどやることにしました。せっかく先輩方が残してくれた財産だからね」
奥で共同店が始まったきっかけは、1904年に起きた大旱魃と日露戦争勃発による増税。集落の人々は力を合わせて木々を伐採して生活物資と交換、また那覇まで船で運んで販売しました。それが発展し、やがて製茶・精米・酒造などの事業も行うようになり、さらには金融業にまで手を広げたのだそうです。共同店とはただの商店ではなく、集落の人々みんなで出資して経営する会社のようなものだったのです。
「でも、それは昔の話。今では生活必需品を販売するぐらいよ」と宮城さんは謙遜するが、ここには他の共同店にはないモノがあります。なんとガソリンスタンドを併設しているのです。
「これもうちが出資しています。あと、すぐそばにある簡易郵便局も管理しています。これがあるおかげで、まわりの集落の人もやって来て利用してくれますね」
店にはバイクのツーリングや、ロードレースの練習中の人々がよく立ち寄る。
「ドライブの折り返し地点だからなのでしょうね。外に置いてあるテーブルとイスで長い時間くつろぐ人が多いです」
思わずのんびりしたくなるのもよく分かります。ロケーションもさることながら、やはり何より共同店があるという事実が、訪れる人を安心させてくれるのでしょう。
最後に店の売れ筋商品を教えてもらいました。
「奥はお茶どころですから茶葉ですね。特に人気があるのは『奥みどり』。あと季節限定で販売している紅茶も好評です」
奥までドライブしたら、ぜひお土産に「奥みどり」を。紅茶も珍しいお土産になりそうです。
【店舗データ】
- 店名
- 奥共同店(おくきょうどうてん)
- 住所
- 沖縄県国頭郡国頭村奥113
- 電話
- 0980-41-8101
- 営業時間
- 7:00〜〜18:00(4月〜10月ごろは18:30閉店)
- 定休日
- 月曜日(祝祭日は開店)
【オマケ画像】
芭蕉布の里でほっこり〈喜如嘉共同店〉
地産地消を地でいく店
芭蕉布(ばしょうふ)の里として名高い大宜味村喜如嘉(きじょか)。集落のあちらこちらで見かけるリュウキュウイトバショウの畑は、この織物の材料です。
静かな佇まいを見せる集落の中ほどにあるのが「喜如嘉協同店」。生活必需品を求める地元の人々が絶えない繁盛店です。取材中もパンをしこたま買う女性、仕事帰りにお酒と煙草を買う男性、電池を買いに来た親子など、ひっきりなしに客が訪れていました。
「皆さんに普段遣いしてもらっているお店です」と話すのは店長の山口真里さん。喜如嘉に生まれ育った彼女が店を任されたのは1年ほど前のこと。それまで個人経営だった店が区の運営に移管されたのをきっかけに店長の公募があったのだそう。そこで真っ先に手を挙げたのが彼女でした。
「地元のために働くってやりがいがありそうだなって。実際働いてみると細かい業務が多くて思っていたより大変(笑)。でもお客さんとの触れ合いが楽しいですね」
店には食料品をはじめ、雑誌や雑貨、嗜好品に加えて肥料や季節の草花まで販売しています。コンビニに引けを取らない品揃えです。
区長の稲福隆さんによると「山口さんの頑張りのおかげで以前に比べて取扱品数がとても増えました。喜如嘉の野菜が多いのも、彼女が喜如嘉で畑をしている人たちに丁寧に声を掛けてくれているから」とのこと。すると真里さんは謙遜しつつ「野菜を入荷したら、区長がスピーカーで『きょうは◯◯さん家のバナナが入りましたー』と放送してくれるんですよ」と笑いました。喜如嘉を訪れた際、区長さんの放送が聞けた人はラッキーかもしれません。
店には他に、地元で採水されたミネラルウォーターや、お菓子や味噌などの加工食品など喜如嘉産の珍しい商品が並びます。観光客が買い求めると思いきや、意外にも地元の方が買っていくのだそう。
「特に月桃の石鹸は結構売れています。普通の石鹸に比べて肌に優しくて好評です」
地産地消を地でいく喜如嘉共同店。その影で店長の努力がきらりと光っています。
【店舗データ】
- 店名
- 喜如嘉共同店(きじょかきょうどうてん)
- 住所
- 沖縄県国頭郡大宜味村喜如嘉522
- 電話
- 0980-44-3550
- 営業時間
- 7:00〜13:00、15:00〜19:00(6月〜9月は19:30閉店)
- 定休日
- 日曜日
【オマケ画像】
最先端の共同売店ならこちら!〈安田協同店〉
古き良きものを残すため、新しい試みに挑戦
国頭村安田(あだ)は東海岸に位置する人口160名余の小さな集落。「安田協同店」はこの集落に唯一の店舗で、「共同」ではなく「協同」と書きます。
「最初は他の地域と同じように『共同店』だったのですが、1950年に『協同店』に改称されました。皆で力を合わせて作り上げるという意味だそうです」と話すのは店主の徳田泰二郎さん。コーヒー栽培の傍らで店を切り盛りしています。
店の一番人気は100円の美味しいコーヒー。開店と同時に人々がやって来て、コーヒーを片手に思い思いの時間を過ごします。「この価格では自分たちが栽培しているものは難しい。外国産ですが、厳選した豆を自家焙煎しています」と泰二郎さんが言うと、妻の優子さんがサービスの理由を教えてくれました。
「皆が集い語らう場所を作りたかったんです」
安田での「ホッとするひととき」を求めて観光客も訪れます。集落の素朴な自然や文化に惚れ込んだリピーターが多いとのこと。そんな彼、彼女たちのために置いている、オーガニックな商品や地元アーティストの手作りTシャツなども目を引きます。
また、昨年12月より、沖縄ファミリーマートの協力を得て、お菓子や惣菜などの食料品を扱う自販機コンビニを設置。これは安田とその周辺にランチを食べる場所がない…というお悩みの解決策として導入したものです。
新しい試みに挑戦する「安田協同店」ですが、店の基本は決して変わっていません。たとえば集落に住むお年寄りの“見守り”。
「買い物している姿を撮ってインスタにアップすれば、離れて住んでいるご家族も安心する。商売だけではない役割が店にあります」(泰二郎さん)
売り上げ的にはなかなか厳しいといいますが、それでも徳田夫妻が店にこだわり続けるのには理由があります。それは、16年前に安田へ移住したとき、協同店という存在を通して集落の人々に助けてもらったという恩義。
「ここがあることで、とても救われました。次は私たちの番」(優子さん)
「この店の魅力は僕たちが作ったのではなくて、100年に渡って先輩方が苦労して育んできたもの。それを続けるためにも、前に向かって歩いていきたいですね」(泰二郎さん)
そんな思いを込めて2人が淹れるコーヒー。時間を掛けて飲みに行く価値は十分にあるはずですよ。
【店舗データ】
- 店名
- 安田協同店(あだきょうどうてん)
- 住所
- 沖縄県国頭郡国頭村安田853-8
- 電話
- 0980-41-7355
- 営業時間
- 7:30〜〜20:00(10月〜3月は19:00 閉店)
- 定休日
- 火曜日