舞台を知りたい
沖縄独特の食文化ってどんなもの?
中国や日本の影響を受けて発達した琉球料理。かつお節や豚肉のダシがきいた、滋味豊かなメニューが受け継がれています。ラフテー(三枚肉の角煮)など豚肉のメニューが有名ですが、「鳴き声とヒヅメ以外は全部食べる」とされ、耳や内臓まで食べ尽くすのは、豚肉は年に1~2度しか食べられない「ごちそう」だった時代の名残と言えます。また、雑草を食べて育つ山羊も貴重なたんぱく源。こちらも山羊刺、山羊汁、血や内臓を使ったチーイリチーなど余すことなく食べ尽くし、新築祝いなどの席では欠かせないごちそうです。
盆正月に欠かせない中身汁(豚ホルモンのお吸い物)、イナムドゥチ(甘い白みそのみそ汁)をはじめ、チャンプルー(島豆腐の入った炒めもの)、イリチ―(豆腐の入っていない炒め物)、ンブシー(炒め煮)など料理名のウチナーグチも多彩です。戦後はチャンプルーなど庶民的な沖縄料理には、米軍がもたらしたポークランチョンミートやツナ缶がよく使われるようになりました。今や県民食となったタコライスも、米軍が持ち込んだタコスを元に考案されたメニューです。
沖縄料理に欠かせない食材「島豆腐」って?
沖縄で作られる豆腐だから単に島豆腐と思うことなかれ。実は国も特別な扱いを認めた沖縄独特の食文化のひとつ。かつてはそれぞれの家庭で作られていたほどで、食べ方も作り方も県外の豆腐とは一線を画すのです。
島豆腐の合言葉は「あちこーこー」
「ちむどんどん」では、ヒロインの幼なじみの砂川智の実家が豆腐屋であることから、ドラマの中にも島豆腐が登場します。汁物や炒め物(チャンプルー)、泡盛のつまみなど、沖縄料理には欠かせない食材です。
沖縄県外では豆腐は冷たい状態で販売されますが、県内ではおいしい豆腐の合言葉は「あちこーこー」。出来立ての熱々のものが島豆腐のおいしさの証明なのです。スーパーに行くと豆腐屋から出来立てのあちこーこーが運ばれてくる時間が掲示されており、その時間をめがけて県民は島豆腐を買います。この熱々の豆腐を食べる沖縄の豆腐文化は、かつて各家庭で作られていた名残と言えるでしょう。
沖縄の本土復帰後、日本の食品衛生法に準じて島豆腐も冷蔵販売が義務づけられそうになりましたが、県民の食文化として特例が認められ、何とか「あちこーこー豆腐」の販売が許されています。ただし、2021年6月1日から国際的な衛生管理基準「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理が義務化され、管理基準が厳しくなりました。納品時の豆腐の温度は55℃以上を保ち、店頭販売は製造から3時間以内に限定。パック入りの冷蔵島豆腐も急増していますが、それでもまだ、あちこーこー豆腐人気は健在です。
そんな島豆腐と沖縄県外の一般的な豆腐との一番の違いは、製造過程。県外では、一般的に水に浸した大豆をすりつぶした汁である呉汁(ごじる)を煮てから絞って豆乳をつくり、にがりなどの凝固剤で固めます。島豆腐は生絞りといって、呉汁を生のまま絞ってから火にかけて煮ます。それゆえ、島豆腐は大豆の風味はもちろん、大豆たんぱくがふんだんで、栄養価が高いのが特徴。また、伝統的には海水を使って固めるため、ミネラルも豊富なのです。
沖縄に来たら、ぜひ、あちこーこーの島豆腐をうさがみそ~れ(召し上がれ)。
豆腐どころ糸満代表「宇那志豆腐店」
20代のにぃにぃたちが作るやさしい味の島豆腐
糸満本店の屋号「宇那志」から名付けられた宇那志豆腐店。創業は昭和60年で、沖縄南部ほぼ全地域に卸す島豆腐は、全てを糸満本店で製造しています。糸満の原風景を感じさせる赤瓦屋根の一軒家の一部を工場にしており、訪ねてみれば、老舗の豆腐屋さんの雰囲気が味わえます。
ところが、工場のドアを開けると、そこにいたのは、身長180㎝はゆうにある二人の若いにぃにぃの姿!!聞けば元野球部だそうで、白球を追いかけていた時のように額に汗をにじませながら、一生懸命豆腐を作っていました。
「地元の産業だし、やってみようと思いました」
次世代へのバトンタッチがなかなか難しい伝統産業において、なんとも心強い若者たち。かつて海人のまち糸満では、男たちは漁に出て、陸に残された女たちが豆腐作りで生計を立てていた歴史もありますが、それも今は昔。にぃにぃの島豆腐もおつなものです。
宇那志豆腐は糸満本店ともう一つ、那覇市赤嶺に小禄店があります。モノレール赤嶺駅から徒歩5分という便利な場所にあるので、帰りの飛行機に乗る前に絶品島豆腐を買って帰るのもいいかもしれません。
朝6時。豆腐屋さんの朝は早いのが定番ですが、この日一番乗りしたスタッフは2時半で、すでに何度目かの島豆腐ができあがっていました。熱々のままカットして袋に詰められている島豆腐に、その奥で袋詰めされているゆし豆腐。いずれも湯気の中においしさを感じる風景です。
宇那志豆腐では、地釜製法という先代から受け継がれた伝統に加え、まだ38歳と若い2代目大城光社長オリジナルのアイデアが盛り込まれた島豆腐が作られています。大豆の糖度8%をいかに引き出して味に生かすかがポイントなのだそう。
生絞りの豆乳に火入れをした後、にがりを加えて固めるのが島豆腐の作り方ですが、にがりはゆっくり入れるのが一般的。なぜなら豆腐が硬くならないからとされていますが、宇那志豆腐は豪快に高い位置から一気に豆乳の中に注ぎます。「こんな入れ方するところは他ではないようです」と、それがまたおいしさを引き出す秘密だと、社長の次に古株の玉城享さんが教えてくれました。
そして、小禄店の様子を見てお気づきでしょうか。ここで島豆腐を作っているのも、また20代のにぃにぃたち。総勢10人ほどいるそうですが、みんな若い!沖縄の大切な食文化を若手が担っているのは本当に素晴らしいことです。島豆腐はもちろん、頼もしいにぃにぃたちにもぜひ会いに行ってみてはいかが?
小禄店を支えるスタッフ。それぞれおすすめの食べ方は照屋正吾さん(左)「納豆がけやっこ」、佐渡山洋人さん(中)は「トーフチャンプルー」、国府方端貴さん(右)は「冷蔵庫の残り野菜を一緒に入れた島豆腐鍋」
【店舗データ】
- 店名
- 宇那志豆腐店 糸満本店/小禄店
- 住所・電話
- 糸満本店/沖縄県糸満市糸満152 098-992-2522
小禄店/沖縄県那覇市赤嶺2-14-4 098-996-3396 - 営業時間
- 6:00~15:00 購入の場合、事前に電話でご予約いただけるとスムーズです
- 定休日
- 日曜日
【オマケ画像】
最後にこぼれ話。「ちむどんどん」にでてくる島豆腐の監修・指導をしたのは、宇那志豆腐の大城社長。工場にも役者さんたちを呼び、本物の作り方を体験してもらい、撮影に臨んだそうです。
やんばる名物の島豆腐といえば「やんばる家玉栄」
3つの地釜の秘密
オクマビーチホテルから散歩をして10分ほど。昔ながらのやんばるの民家とフクギ並木を抜けていくと、桃原公民館の近くにあるのが、島豆腐屋さんの「やんばる家玉栄」。国頭村では豆腐屋さんがどんどん少なくなっており、今では喜如嘉や東村あたりまで、玉栄さんの島豆腐が配達されるのを心待ちにしている人がたくさんいます。ご近所さんは、朝の散歩がてら無人売店に立ち寄り、朝食用の豆腐を買っていくそうです。時には米軍の保養施設があるビーチから外人さんがやってくることもあり、ドルが入っていたりしてビックリするとか。
やんばる家玉栄を切り盛りするのは、金城えつ子さん。実は数年前に豆腐屋を立ち上げた夫の照夫さんが体調を崩したため、現在はひとりでがんばっています。
「もともと主人は建築業を営んでいたんですけど、義母が生前、豆腐屋をやっていたこともあって、豆腐屋をはじめたんです」
当時は、ご主人が製造担当でしたが、今はすべて一人でやらなければなりません。
「一緒にやっていた時は、2時に起きることができなくて寝坊してよく怒られました」
と笑います。
手作りの島豆腐屋さんはそれぞれに工夫があるものです。ご主人から受け継いだこの玉栄もしかり。その一つが、にがりではなく昔ながらの「海水」を使うこと。しかも、地元の漁師さんに頼み、月に一度辺戸岬の沖まで行って、キレイな海水を汲んできてもらっているといいます。沖縄の島豆腐は塩味が効いているのも特長。海に囲まれた島だからこそ誕生した豆腐なのです。
二つ目は、豆腐を成型する時、重しをして水を切りながら形を整えるのですが、重しに押されて飛びだした豆腐の端をきれいにするため、再度布で包みなおしてさらに重しを載せるという手間をかけていること。
そして、3つ目。島豆腐を作るその成型前、豆乳が固まって汁に豆腐が浮かんでいる状態のものを一般的には「ゆし豆腐」といって、そのまま汁物としてよく食べます。これがまた二日酔いの翌朝にとってもいいのですが、玉栄では、ゆし豆腐はゆし豆腐を作るためだけに釜に火を入れ、決して島豆腐を作る時のついでにできるものではないというのです。
「工場には3つの地釜があるでしょ。みんなそれぞれを作るための地釜なの。一つは、島豆腐用。そして、ゆし豆腐用と、さらには、豆乳用。なぜって、それぞれ豆の濃さも、塩の濃度も違うから。一緒には作ることはできません」
いただいた豆乳のおいしさは、言うまでもなく絶品。出来立てのこれが味わえる国頭村の人は、なんて幸せなのだろうとうらやましくなる味でした。
玉栄さんのゆし豆腐は、舌触りがびっくりするほどの滑らかさ。豆乳は全く水っぽさがなく濃厚。そして、島豆腐は塩加減がやさしくて柔らかいのに、しっかりしています。無人売店が品切れだったら、奥に声をかけてみましょう。タイミングがよければ、作り立てのあちこーこーがでてくるかもしれません。
【店舗データ】
- 店舗
- やんばる家玉栄
- 住所
- 沖縄県国頭郡国頭村字桃原29
- 電話
- 0980-41-2832
- 営業時間
- 6:30~
- 定休日
- 日曜日
【オマケ画像】
あちこーこー豆腐に挑戦!島豆腐作り体験
沖縄県内でも数少ない石臼を使った体験コース!
食べたり見たりしていても、実際に自分で作る体験というのは貴重なもの。ぜひ、沖縄ならではの食文化「島豆腐」を自分の手で作ってみましょう。しかも、体験する場所は昔ながらの赤瓦の伝統建築。糸満海のふるさと公園の一角にあって、雰囲気もバッチリなのです。
身支度を整え、簡単に今日の体験の概要の説明を受けたら、体験スタート!!糸満のNPO法人ハマスーキの事務局長、上原達彦さんのガイドで、まずは、庭に出て、一晩ふやかした大豆を昔ながらの石臼で挽きます。
ハマスーキは糸満の海人伝統文化を伝えていくことを目的としたNPO法人。島豆腐は糸満の家庭でもよく作られており、その生活を知ってもらうために、体験プログラムを実施しています。
「おお、石臼ってこんなに重いんですね!」
二つの石を合わせ、上の石の注ぎ口からふやけた大豆と水を一緒に入れて回すのですが、女性の力ではかなりの重さを感じます。しかも、そこそこの量の大豆を挽かないと島豆腐にはならないので、かなりの時間がかかりそう。
「昔の女性はこれを各家庭でやっていたんですよね!これは大変!」
呉汁がある程度できたら、濾して、鍋にあけて火にかけます。隣の鍋では、豆乳を固めるための海水の準備。糸満では沖合の海水を汲んできて島豆腐を作っていたので、今回の体験プログラムでも海水を使用します。(念のため、ろ過・煮沸もしっかりと行いました)
「お豆腐になってきた~!」
鍋をのぞき込むと、少しずつかたまり始め、ゆし豆腐の状態に近づいてきました。なんだかちょっと嬉しい感じ。
頃合いを見て火を止めると、出来上がっているのはまちがいなく「ゆし豆腐」!!
あちこーこーのうちにいただきましょう。
自分で作るとこんなにもおいしいものなのかと感動しているところに、上原さんが持ってきてくれたのが島豆腐。残ったゆし豆腐をケースの中に入れ、重しをして余分な水分を切れば成型された島豆腐になります。これまたパクパク止まらないおいしさ。
「いや~、今日はいい体験ができました!」
「初めてでも美味しく作れて楽しかったです!」
家族で、お友達どうしで、ちょっといつもと違う沖縄体験をしたいのならば、島豆腐作り体験はおすすめ。より身近に沖縄を感じることができることまちがいなしです。しかも、家庭の塩でも作れるにがりの作り方も教えてもらえるので、自宅でも島豆腐にチャレンジできます。後日ぜひ挑戦を!
【店舗データ】
- 予約窓口
- 糸満市観光協会
- 体験住所
- 糸満海のふるさと公園 沖縄県糸満市西崎町1-4-11
- 電話
- 098-840-3100
- 所要時間
- 約1時間
- 対象年齢
- 3歳以上
- 料金
- 2名様以上5名様まで 12,000円(税込)
5名以上の場合は、おひとり様につき2,400円追加
団体の場合は、ご相談ください。 - お願い
- 準備の関係がありますので、できるだけ早めにご予約ください。
- URL
- 糸満市観光協会
https://www.itoman-okinawa.jp/
NPO法人ハマスーキ(糸満海人工房・資料館)
http://www.hamasuuki.org/home/index.html