旧小学校の校舎を生まれ変わらせた
喜如嘉翔学校の取り組み
喜如嘉翔学校の取り組み
- 1 建物を壊さずに新たな施設とし、地域住民の財産を未来に残す
- 2 宿泊施設を運営し、より深く心に残る体験を提供する
- 3 喜如嘉地域に来訪者を呼ぶきっかけを創る
2022年にオープンした複合施設「喜如嘉翔学校」は、大宜味村喜如嘉で127年愛されてきた旧喜如嘉小学校の校舎を活用した施設です。地域に根付いた建物を壊さずに修繕し、観光客を呼び込む場所として、新たな付加価値を与える。そこには、廃校を活用するからこそ生まれた様々な苦労があったそう。これまでと、これからについて聞きました。
未経験から始まった学校活用プロジェクト
喜如嘉集落の奥に位置する喜如嘉翔学校。建物のすぐ裏にはやんばるの森が広がり、鳥や昆虫、イノシシなどが暮らす、自然豊かな場所です。現在、この施設には14のテナントが入居。オープン当初の3テナントから徐々に増え、工芸ショップや古本屋、ハンモック工房、サウナ、研究所、芭蕉布の研修施設などジャンルは多彩。2025年7月には宿泊施設「BUNAGAYA」がオープンし、ますます活気づいています。
運営する合同会社キノボリトカゲは、大宜味村で暮らす山上晶子さんが立ち上げた会社です。東京都出身で2004年に移住し、3人の子どもたちは喜如嘉小学校に通いました。
「この学校はおとぎ話みたいな場所でした。敷地内にある木々にはグァバやさくらんぼが実り、休み時間になると子どもたちが校内を駆け回りながらその実を食べるんです。校内に設置された巣箱にはアオハズクの親子が暮らしていました。こんなに素晴らしい環境がなくなってしまうのは残念でならないと、大宜味村が公募した校舎活用事業に応募することに決めたんです。自治体の事業に手を挙げるのも初めての経験でしたが『大手企業ではなく、この地域に住む私たちで何かがしたい』の一心でした」
トラブル続きも、広がった支援の輪
村から活用事業者に採択され、いざ開業準備を始めると、想定外のことが続きました。校舎内のトイレは水が流れず、水道管はいたるところが破裂。浄化槽も取り替えが必要な状態でした。
「テナントを募集し、宿泊施設を運営するという計画を立てただけで応募したので、どれだけお金がかかるか検討もついていませんでした。電圧設備の管理費用といった固定費に加え、修繕費もかなりの額がかかってしまいました」
宿泊施設の開業に向けても難題が。建築基準法による学校から宿泊施設への用途変更の許可申請に1年かかり、その間に資材費や人件費が高騰。開業資金として、補助金と融資金で4000万円を準備していたものの、浄化槽の購入と設置、電気設備や消防設備の準備のために、新たに1500万円が不足してしまったのです。
インスタライブのキャプチャ画像
喜如嘉翔学校の運営を続けるには、利益率の高い宿泊施設の運営は不可欠だと考えた山上さんは、足りない資金を補おうとクラウドファンディングを始めました。
「もう後がなくなり、これしかないと2025年4月からスタートしました。スピード感を大切にしたかったため、期間を1ヶ月に設定。返礼品は入居テナントの店主たちと一緒に考え、喜如嘉翔学校での体験プランを用意しました。インスタグラムなどのSNSを中心に呼びかけ、最終日には店主たちと一緒にライブ配信も実施。671人もの人が支援してくれ、目標額以上の金額が集まりました」
喜如嘉小学校の卒業生や大宜味村喜如嘉地域のファンなど、県内外から多くの支援が届きました。支援金とともに「やんばるが好き」「自然と文化を守ってほしい」などと声が寄せられたそうです。集まった資金も活用し、7月に「BUNAGAYA」がオープンしました。
来訪者を「寓話」の世界へいざなう施設に
提供イラスト
喜如嘉翔学校を語る上で欠かせないのが、「寓話」というコンセプトです。ホームページを開くと、「旧喜如嘉小学校は、沖縄のぶながやの遊び場です」という文字が浮かび、架空の物語が紹介されています。大宜味村に古くから伝わる精霊「ぶながや」をはじめとした森の精霊たちが主人公。モノクロで書かれたちょっと不思議なイラストも、見る人の想像力を掻き立てます。
喜如嘉翔学校に住む精霊たちのイラスト
キャラクターデザインを担当したデザイン事務所サンシャインデザイン代表の幸野志勇さんが制作時を振り返ります。
「大宜味村にとって『ぶながや』は、長寿、芭蕉布、シークヮーサーに並ぶ4つのキーワードのうちの一つです。晶子さんが上手なのは、コンセプトを『寓話』にし、この施設を『ぶながやにそそのかされる場所』としたこと。そのコンセプトがあったからこそ、他のキャラクターが生まれ、喜如嘉翔学校の世界観ができ上がりました。入居者も含め、ここには、その世界観に賛同した人たちが集まっています」
提供写真
宿泊施設「BUNAGAYA」でも、コンセプトである「寓話」が随所に活かされています。客室は、多目的室として使われていた大部屋を6部屋に区切っているため、天井が低くコンパクトなつくり。そうした空間を「ぶながやの棲家」として案内することで、訪れる人を寓話の世界へといざないます。さらに夜になると、照明によって部屋の入口が浮かび上がるように照らされ、より一層の没入感を演出。各部屋には精霊の名前がつけられ、ルームサインにはそれぞれのイラストが描かれているのも印象的です。
喜如嘉翔学校のオープンから3年が立ち、年々この場所を訪れる人達が増えているそう。入居テナントの店主も気さくな方ばかりで、訪れる人の中には、彼らに会うことを目的に来たという人も多いといいます。今後は宿泊施設の運営を軌道に乗せ、稼働率を上げることを最優先に置き、その後新たな展開も考えたいとのこと。
「改めてこの場所について調べた時、歴史の重みを感じました。喜如嘉という集落が誕生して一番最初にできた施設が喜如嘉小学校だったそう。沖縄戦後、山に避難していた住民たちはこの地域に戻り、住民総出で斜面を平地にならし、掘っ立て小屋の校舎を作って子どもたちに学びの場を提供したといいます。それだけこの建物が住民の方にとって意義深い場所なんだと思うと、たとえ形を変えたとしても、今ここに残っていることがすごく意味のあることだと思うんです。宿泊施設ができたことで長時間滞在することができ、訪れた方々にはより心に残るような深い体験ができるのではないでしょうか。それに、この地域で暮らす方々はフレンドリーな方ばかり。店主も含め、たくさんの人と交流してもらい、『おかえり』『ただいま』言い合えるような関係を作ってもらえたらうれしいです」
歴史ある建物を活用することで新たな価値を生み出し、来訪者が地域を訪れ、人と人とがつながるきっかけにもなる。地域の財産を未来に残す喜如嘉翔学校の取り組みは、古き良き沖縄の良さを再認識する、新たな旅のスタイルとなりそうです。
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