沖縄のサトウキビの魅力を届ける
TIMELESS CHOCOLATEの取り組み
- 1 サトウキビのおいしさを理解・尊重し、文化や歴史をお客さまに伝える
- 2 地元・沖縄の素材であるサトウキビを最大限に使い、地産地消に貢献
- 3 世界フェアトレードの原則にもとづき、生産者へ利益を還元
400年以上にわたり沖縄の暮らしを支えてきたサトウキビ。収穫し、搾った汁をじっくりと煮詰めて作る黒糖は、滋養に富むことから「ヌチグスイ(命薬)」として親しまれ、お茶請けや料理に使われてきました。そんな黒糖を “世界基準の素材” としてとらえ、その価値を再発見・発信しているのが、沖縄初の Bean to Bar 専門店、「TIMELESS CHOCOLATE(タイムレスチョコレート)」です。
主力商品のチョコレートタブレット。2020年沖縄県優良県産品の最優秀賞である「県知事賞」を受賞。
彼らがつくるチョコレートは、驚くほどシンプル。一般的なチョコレートがカカオマス、ココアバター、植物油脂、砂糖など複数の素材で構成されるのに対し、自家焙煎したカカオ豆と沖縄のサトウキビだけでつくられています。その理由は、黒糖が本来持つ香りや風味をできる限りダイレクトに届けたいという思いから。そして何より、サトウキビという地域資源への敬意と、この黒糖の文化を未来に残したいという使命感が込められています。2014年の創業以来、「沖縄でしかつくれないチョコレート」を追求し続けてきました。
“引き算”の思想で 唯一無二の商品を生み出す
オーナーの林正幸さんは、約20ヵ国を旅した元バックパッカー。オーストラリア・メルボルンでバリスタ修業をしていた頃、ある疑問を抱いたといいます。
「コーヒーは産地や焙煎法にこだわるのに、合わせる砂糖には価値の議論がほとんどない」
その違和感をきっかけに、砂糖の可能性を探るべく古くから黒糖文化が息づく沖縄へやってきました。各地のサトウキビ農家を訪ね歩くなかで、黒糖職人によって昔ながらの地釜で炊いて煮詰めた黒糖の香りや深い味わいに心を揺さぶられたといいます。
「“生まれたて”の黒糖は、焼き芋のようなほくほく感や、コーンポタージュのような濃い旨味を感じて本当に感動しました」
数十年前まで、黒糖は農家ごとに作られており、搾り方や加熱時間、火加減など、それぞれ異なる秘伝のレシピが受け継がれていたといいます。しかし、時代の変化と共にその光景は大幅に減ってしまいました。
この文化を途絶えさせてはいけないと強い危機感を抱いた林さん。まだまだ知られていない黒糖の可能性を世界中に伝えるための間口を広げたのがチョコレートでした。
工房内で丁寧に作られるチョコレート。現地に直接足を運び仕入れるカカオ豆をはじめ、昔ながらの石臼挽き製法で時間をかけじっくりと仕上げていく。
サトウキビの搾り汁を煮詰めた際にできる未精製の結晶 “島ザラメ(粗糖)”のツブツブとした食感や、鼻を抜けるカカオの香り、奥深い味わい。タイムレスのチョコレートが唯一無二の存在感を放つのは、シンプルな素材を最大限に生かす“引き算の思想”が根底にあるからです。
「日本各地を旅したときに食べた郷土料理や伝統菓子はどれも素材を活かしたシンプルな構成でした。不要なものを削ぎ落とし、本当に必要なものだけを使う、日本人が持つ引き算の思想をチョコレートにも活かし、原材料を極限まで減らした他にはないチョコレートができました」
チョコレートタブレットの他に、カカオ黒糖(左)やチョコレートボンボン(右)のどちらもカカオ豆とサトウキビだけで作られている。
志を同じくする異業種との連携で活動の輪を広げる
タイムレスチョコレートは、黒糖のアドバイザーとしても積極的に活動しており、菓子の枠を超えたコラボレーションも多数行っています。サトウキビの品種や製法によって異なる風味や特性を探求し、その経験を活かしたお酒造りや他社が手掛ける黒糖を活かした商品作りにも携わりました。その他にも、コロナ禍で県内の黒糖が過剰に余ったことが問題化した際には、県内スキンケアメーカーと協力し黒糖を使ったボディクリームを開発。
どれも、「沖縄の素晴らしい素材の可能性を見出し、発信したい」という共通の思いから生まれた取り組みです。異業種の仲間と繋がり活動の幅が広がったことが、タイムレスチョコレートの最大の成長要因だったと林さんは語ります。
黒糖とカカオが使われた「カカオバター ボディ&ハンドクリーム」
世界に誇れる素材として、
「黒糖」の価値を再定義する
世界市場では、黒糖は「ブラウンシュガー」という広いカテゴリーにまとめられ、含蜜糖や、精製糖を着色した砂糖などの一つとして扱われているのが現状。そんな現状を変えるため、タイムレスチョコレートは、ブラウンシュガーとしてではなく、ブラックシュガー「KOKUTO」として黒糖を世界に向けて再定義する取り組みに力を入れています。その一つとして生まれたのが、粉末状の黒糖「TIMELESS KOKUTO」です。
泡盛の専門家やパティシエ、バーテンダーなどと、沖縄周辺八離島の黒糖の味わいを分析し、味や香り、食感などのテイストをチャート化。その分析結果をもとに各島の黒糖をグラム単位でブレンド。さらに、熟練の職人が昔ながらの地釜・直火で黒糖を手作りしている今帰仁村の共栄社と協業し高品質の黒糖パウダーに仕上げました。商品開発の資金の一部には企業連携補助金を活用し、世界各国のレストランやバーなどさまざまなシーンで使えるよう新たな販路拡大を図っています。
ストーリーを伝えることが、体験価値を生む
タイムレスチョコレートが商品販売で大切にしているのは、「体験に価値を置く」こと。手に取るお客さまへ丁寧に黒糖そのもののおいしさや背景を伝えるのはもちろん、商品に込めた思いを伝えられるよう、卸先は深い関係性を築ける店舗に限定しています。
また、パッケージデザインにも妥協はありません。中央には沖縄古来の貿易船・進貢船が、さらにサトウキビ畑やサングヮー(沖縄のお守り)など、沖縄らしいモチーフが随所にあしらわれ、そのデザイン性の高さから、県内のクリエイターに贈られる広告賞のグランプリを獲得しました。
「いいものを、細部までこだわったパッケージで届ける。手に取ったお客さまの心を惹きつけることで、素材の価値に気づくきっかけにつながると思います」
100年後もサトウキビを残すために
職人、農家が豊かになるサイクルを
100年後もサトウキビを残すために職人、農家が豊かになるサイクルを
サトウキビ産業は、収入の不安定や後継者不足など多くの課題を抱えています。タイムレスチョコレートは、こうした課題に「自分たちだからこそできること」を模索し正面から向き合っています。
「僕たちが商品を通して語り継ぐことで、心に響いたお客さんがまた語り継いでくれる。そうやって物語が伝わっていくことで農家や職人が正当に評価され、持続可能な収入が得られるサイクルにつながる。近い将来に、若い人たちがサトウキビ農家を志す世界になってほしいと願っています」
地域資源を深く理解し、価値を言語化し、丁寧に届けるタイムレスチョコレート。林さんの言葉には、産業の未来を見据えた思いが込められています。
次なる目標は、自社畑の設立と、畑の目の前でできたての黒糖アイスを味わえるアイスクリーム店を開くこと。世界中を旅したことで深まった、地域の資源や文化を大切にする思い。黒糖の持つまだ見ぬ可能性を、林さんならではの視点と行動力で拓いていきます。
- 住所/〒904-0113
沖縄県中頭郡北谷町宮城3-223 - 詳細を見る
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