離島であることの厳しさ。昔から沖縄では離島の生活やビジネスを語る際に、離島特有の様々な不利な状況や困難を表現する「離島苦(しまちゃび)」という表現が使われてきました。現在、観光客数が急伸し人気の観光地となった宮古島。そんな多くの人々を惹きつけている宮古島でも、さまざまな問題が山積しています。
生活のコスト高もそのひとつ。例えばガソリンの価格は沖縄本島と比べて1リッターあたり30円ほど高くなることも。車での移動が基本の離島では大きな負担になるほか、食料品においてもその問題はついて回ります。例えば夏場は野菜の自給が困難なため島外からの仕入れが増え、農業が盛んな宮古島であっても価格が高騰し入手がしにくくなる現状があります。台風が来れば船が止まることで生活必需品や加工品のほか、飲食店の材料となる原料が入手できなくなるなど、その苦労は離島で生活してみないと分からないことも多々あり、生活だけでなくビジネスを行う事業者にとっても様々な困難が待ち受けています。
持続可能な農業ビジネスの確立に奮闘
TORIKO FARM MIYAKOJIMAは、宮古島の恵まれた自然環境を活かしながら、持続可能な農業を実践する農家。もともと旅行業界から転身した代表の国吉 翔平さんは農業に転身する以前は営業の仕事をしていたこともあり、農産物のPRや販路拡大を積極的に進めています。
その活動の基本となるのが「自らが先頭に立ち、まわりの農家と連携することで、宮古島の農産物のブランド化を果たす」姿勢。例えば、高齢の農家が生産する作物で販路が限られているものを代行して販売することも行い、農家が安定した収入を得られるようサポートすることで規格外品を加工して新たな価値を創出し、廃棄されるはずだった農産物を無駄なく活用する取り組みも行っています。このような活動は地域の農業全体を活性化させ、持続可能な経済モデルの確立に寄与し、生産農家である「送り手」とそれを仕入れる流通関係者(問屋や飲食店など)である「受け手」との間で、Win-Winの関係を築きあげています。
右:代表の国吉 翔平さん。主力商品のマンゴーのほか、紅芋の栽培も行っている
離島でビジネスを展開する思いと使命。
地域の人々とのつながりを大切にし農業を通じて地元のコミュニティに深く根ざしていくことは、国吉さんの地域に対する思いから自然と身に付いた感覚。それは国吉さんが島で得た原体験に基づいています。
宮古島では地域の子供の入学式を家族だけでなく地域全体で祝うなど、島全体が一つの家族のような存在といった風習が残り、こうしたつながりが離島での生活を豊かにし、農業を通じて地域貢献を実現する原動力となっているそう。自らが愛する宮古島。その中でも地元との絆の深さが、最も地元愛を感じる瞬間だそうです。
様々な困難を抱える宮古島であるものの、生み出す農作物の価値はどこにも負けない自信がある。しかし、その価値を高めることがなかなか難しい。だからこそ営業力に長けた同ファームがその旗振り役となって市場開拓を積極的に担ってきました。地産地消を進めるだけでなく宮古島の島外へ、さらに沖縄から本土といった県外へと、その価値を伝えるために積極的にブランド価値を高められるイベントを発掘し出店。そして農産物を販売するだけでなく、宮古島の地域情報を丁寧に発信することで、来場者を惹きつけてきました。
今ではイベントで顔見知りになった方々が、観光客として宮古島を訪れた際に農業体験や地元の食材を提供することでファンになっていただけるように。農業従事者でありながら観光PRの視点も持ち、農業と観光の融合によって宮古島全体の魅力を発信する持続可能な地域づくりも進めています。島に生まれ島を愛す農家だからこそ、果たすべき使命がそこにありました。
東京・六本木で行われたファーマーズマーケットのイベントの様子。
同ファームでは自ら出店すべきイベントを探しだし積極的に出店。
ビジネスの視点も絶やさず
同世代と連携する意義
同ファームでは若手農家との連携も大切にしています。そして、そこにもビジネスの視点は欠かさないよう絶えず意識。例えば青果だけでなく苗の生産や販売を通じて若手農家と協力し合うことを重視しています。これは農産物の収穫から販売後の収入を得るまでの期間を補い(苗は栽培期間が短いため)キャッシュフローの改善にも繋がります。こうした同世代との協力によって農業の新たな可能性を開拓し、地域全体の発展を支える重要な役割も果たしています。
地域資源や地域農家の
集積型6次産業化へ
今後、消費期限に左右されない賞味期限が一定日数ある加工品の開発を進め、観光客向けの土産品や海外市場への進出も視野に入れる同ファーム。また、地域の農産物を使った新たな製品開発にも注力し、宮古島全体のブランド力を高めることも目指しています。そうしたチャレンジの過程においても自社の農産物だけに留まらず、連携した農家から農産物を仕入れ集積し加工することで価値を生み出す役割を担います。(生産の1次産業、製造・加工の2次産業、そして流通・販売の3次産業を一括で担う6次産業化を同ファームでは推進)
さらに創業間もない同ファームであるからこそ(創業したてという)現在おかれた状況を強みにし、新たに農業に従事したい方を積極的に雇用。同ファームで経験とノウハウを身に着けてもらい、いずれ独立してもらうことで宮古島の農家の底上げも図っています。こうした雇用で囲い込むのでなく、独立を前提とした雇用で若手農業従事者を育成することも同ファームが人材を集積することで、地域の産業発展に繋げるといった新しい視点のうえで成り立っています。
国吉さん夫妻(中央のおふたり)の活動に賛同した
スタッフの皆さんと直営店の様子。
宮古島全体の農業や観光を支える次世代のリーダーを育てるその試みで、将来的に持続可能な農業を基盤とした地域のモデルケースとなり、宮古島の魅力を国内外へ発信する基盤をつくること。それが同ファームの夢見る、宮古島の農業振興の姿でした。
売り手も買い手もよろこぶ集積役となる!
あらゆる関係者を取り残さず、地域振興を考える。
売り手の農家の「困りごと」を解決し、買い手側の流通関係者のニーズにもかなっているトリコファームの存在。あらゆる関係者がトリコファームを仲介することで好循環が生まれる仕組みづくりこそ、同ファームが築きあげつつある新しい農家の在り方です。まさにSDGsが目指すゴールのひとつ「パートナーシップで目標を達成しよう」に合致する試み。こうした倫理観をもち実践する姿こそ、まさしくエシカルに通ずるものになります。
汗をかく人が、得する仕組み。
それこそが持続可能を実現する鍵。
同業者や地域のまとめ役となる人は、時には「自己犠牲をいとわない!」と使命感に燃える方もいます。しかし国吉さんは関わる方の利益を生み出すだけでなく、自社の利益もしっかりと確立することを意識して活動しています。こうした自社の利益も確保する視点は新しい仕組みづくりにはとても重要な視点。なぜなら、どんなに周りが潤う試みでも自社の利益が生まれなければ持続させることが難しいから。関わるすべての人の利益を生み出す仕組みづくり。それこそが持続可能な農業やビジネスを実現する鍵なのです。
- 住所/沖縄県宮古島市上野字上野388-10
- 営業時間/11:00~18:00
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