生まれ変わった旧喜如嘉小校舎

「芭蕉布の里」として知られる喜如嘉。芭蕉布とは、バナナの仲間である「糸芭蕉」から採れた繊維を使った織物で12〜13世紀ごろに生まれたとされ、今も喜如嘉地域を中心に織り継がれています。また、集落自体も美しい東シナ海と青々とした山々に囲まれており、豊かな自然と沖縄の伝統が残る場所です。

2022年にオープンした複合施設「喜如嘉翔学校」は、創立127年の歴史を持つ旧喜如嘉小学校を活用したもの。少子化の影響で児童数が減り、惜しまれつつも2016年に閉校してしまったのですが、地域住民の思い出が詰まった場所を未来に残そうと既存の校舎を修繕し、当時の面影を残したまま、新しく生まれ変わりました。

喜如嘉翔学校を運営するのは、合同会社キノボリトカゲ。代表の山上晶子さんは東京都出身で、2004年に大宜味村へ移住してきました。

「長男と次男は卒業生です。東京出身の私にとって、子どもたちが駆け回る校舎のすぐそばに、生き物が暮らす手つかずの自然があるこの学校はおとぎ話みたいな場所でした。こんなに素晴らしい環境がなくなってしまうのは残念でならないと、大宜味村が公募した旧喜如嘉小学校校舎の活用事業に応募し、2022年にオープンしました」

個性豊かな14のテナントが集結

喜如嘉翔学校のテーマは「ぶながやの遊び場」。ぶながやとは、大宜味村を中心に古くから言い伝えられ、人々に愛されてきた精霊のことです。2025年11月現在、喜如嘉翔学校には、このテーマに共感した14のテナントが入居。カフェや工芸ショップ、陶芸や木工の工房、写真スタジオ、研究所などジャンルは様々で、2025年7月にはホテルもオープンしました。今回はこの中から、沖縄らしさを感じられる3店舗をご紹介。

宿泊棟の２階にある山原工藝店は、恩納村以北を拠点にする工芸作家の作品を展示販売しています。やちむんや木工品、紅型、琉球藍、漆器など、数多くの工芸品を取り揃えていて、どれも沖縄の息吹を感じるものばかり。お土産や自分への贈り物にもぴったりです。不定期で作家の企画展も開催されているほか、カフェも併設されていて、窓越しに広がる木々を眺めながら一息つくのもおすすめです。

教室棟の１階にある山ブックスは、一歩足を踏み入れるだけで古書の懐かしい匂いがする古本屋。大宜味村出身の崎山すなおさんが、地域に書店がなかったことから一念発起し、2023年にオープンしました。本棚には崎山さんがチョイスした沖縄に関する書籍が並び、沖縄の歴史や文化を知ることができます。また、本棚の一区画を貸し出す「共同書店」も兼ねていて、県内各地の棚主さんが選んだ本がずらり。ジャンルが多彩で、本棚を眺めているだけであっという間に時間が過ぎてしまいます。

校舎裏、森のそばにひっそりと立つ「BUNASAUNA」は、焼却炉をリノベーションした沖縄唯一のハーバルサウナです。65~75℃と一般的なサウナと比べて低温のため、サウナ初心者でも楽しめます。室内にはハーブやシークヮーサー、月桃などこの地域に自生する植物が吊るされていて、これらを蒸気で煮出すことで、まるで森林浴をしているような香りに包まれます。全国各地からたくさんのサウナファンが訪れています。

2025年7月にオープンした宿泊施設「BUNAGAYA」は、ロフトタイプの客室が全部で６室あります。扉を開けて正面にある大きな窓から見えるのは桜並木。１〜２月には、窓一面にピンク色の寒緋桜（カンヒザクラ）が咲き誇ります。また、素泊まりだけでなく、入居テナントとコラボレーションしたプランを追加で選ぶことができ、ハンモック工房「方舟」でのハンモック製作や、山ブックスの本読み放題、ガイドと歩くヤンバルの森散策ツアーなど、様々な体験ができます。

大宜味村を含む、沖縄本島北部やんばる地域の食材をふんだんに使った朝食も人気です。新鮮な卵や季節の野菜で作ったおかずや炊きたてご飯など、プレートに盛り付けられたのはどれも身体に優しい一品ばかり。旅先で、一日を心地よく迎えるために食べたいのは、きっとこんな朝ごはん。

旅先で過ごす実りある時間

地域に愛着のある建物を壊さずに付加価値を与え、新たな施設として蘇らせる。それは人々が愛した風景を未来に残すことにもつながります。さらに山上さんは、この場所だからこそ体感できることがあると話します。

「喜如嘉翔学校の事業を通して、この土地が持つ歴史や文化をより深く理解することができ、知れば知るほど尊敬の念が芽生えています。ここを訪れた方々にも、沖縄や喜如嘉のことを学びながら、何かを感じ取ってもらえるとうれしいです」