映画「宝島」監督 大友 啓史さんに単独インタビュー!
- 掲載日:
- 2025.07.14
沖縄を舞台に、戦後の記憶と希望を紡ぎ出す——
2025年9月19日に公開が予定されている話題の映画『宝島』で再び沖縄と向き合ったのは、連続テレビ小説「ちゅらさん」、NHK大河ドラマ「龍馬伝」、映画「るろうに剣心」シリーズなど数々の名作を手がけてきた大友啓史監督。
映像の力で時代と人間を描き続けるそのまなざしは、今回、観光地としての“表の沖縄”だけでなく、時に見落とされがちな“もうひとつの沖縄”へと向けられました。
撮影中に見つけたお気に入りの路地、心を打たれた地元の人々との出会い、そして「命どぅ宝(命こそ宝)」という言葉の重み——。
監督が語ったのは、映画の裏側だけではなく、沖縄という土地の“深さ”と“優しさ”に触れる旅でもありました。
私たちは今回、大友監督にロングインタビューを敢行。
観光という視点では見えにくい“沖縄の本当の魅力”を、映画を通してひも解きます。
今回、沖縄をテーマとした作品を撮ろうと思ったきっかけを教えてください。
「癒しの島」だけじゃない、沖縄の複雑な表情に惹かれて
ロケ地選定にもこだわりがあったと伺いました。
「青空」だけじゃない、曇りや雨も“沖縄”の魅力
印象に残っているロケ地といえば沖縄本島南部にある南城市の「仲村渠樋川(ヒージャー)」。生活の匂いがする場所が好きなんですよ。村の女性たちの井戸端会議の場だったり、子どもたちが水遊びしたり… そういう生活の記憶が残っている場所に惹かれますね。
それと、観光のイメージだと「晴れていて、海が青くて…」というのがあるけど、僕はむしろ“曇りの沖縄”“雨の沖縄”を撮りたかった。天気も感情の一部なんですよ。数ヶ月滞在していると、沖縄の天候の移ろいが、どこか人間的にも思えてくるんです。
映画の中で描かれる沖縄の姿は、どんな視点で作られているのでしょうか。
観光客に伝えたい「沖縄のもう一つの物語」
もちろん、沖縄の「美しさ」や「明るさ」もあるけど、それだけじゃない「複雑さ」や「重み」を描いています。だからこそ観光で来る方にも、もう一歩踏み込んで沖縄に触れてもらいたい。
映画では、実際の沖縄の路地裏や、デモの再現なども行いました。とくに500人もの地元エキストラの方々が参加してくださったデモシーンでは、当時を思い出して泣いていた方もいたほどです。その姿を見て、僕らの作品が“沖縄発の映画”として受け入れられた気がしました。
観光客にも訪れてほしい、印象深い場所はありますか?
迷路のような「コザの裏道」。暮らしの記憶が残る場所に沖縄の深層がある
やっぱり「コザの裏道」ですね。あの迷路のような路地は、どこか時間の層が重なっている感じがして、歩くだけで面白い。バー帰りにふらふら歩くのもまた味がある(笑)。
それから暮らしの記憶が残る場所も見てほしいです。華やかなリゾートでは味わえない、沖縄の“生活の風景”が、そこにはある。
最後におきなわ物語の読者の皆様へメッセージをお願いします!
観光はもちろん楽しんでいい。でも、ほんの少しだけ、この島が背負ってきたものに想いを馳せてほしい。そこにある優しさは、ただの“癒し”じゃなくて、痛みや悲しみを乗り越えた末のものなんです。
映画『宝島』では、そんな沖縄の“もう一つの物語”を描きました。この映画が、沖縄の魅力をさらに深く知るきっかけになれば嬉しいです。
大友監督へのインタビューを終えて
「沖縄の青い海や空、その美しさの裏にある“物語”を知ってほしい」——取材を通して、大友監督の言葉から何度もこのメッセージが伝わってきました。
映画『宝島』は、エンターテインメントでありながら、沖縄という島の深層に静かに、そして力強く潜っていく作品です。観光という一見明るく表面的な行為にも、「どんな視点で歩くか」「何に目を留めるか」で、その旅はぐっと深くなる。そんなことをあらためて考えさせられる時間でした。
記事の中でもご紹介した「仲村渠樋川」や「コザの裏道」は、ガイドブックでは紹介されない沖縄の“生きた記憶”が感じられる場所です。皆さんもぜひ、映画と一緒に“もうひとつの沖縄”を訪ねてみてください。
大友啓史(おおとも・けいし)
映画監督・演出家/1966年生まれ・岩手県出身
岩手県出身。NHK入局後、大河ドラマ「龍馬伝」や連続テレビ小説「ちゅらさん」など数々の話題作を演出。特に「ちゅらさん」では、沖縄の家族文化やあたたかい人間関係、自然と共にある暮らしを丁寧に描き、日本全国に“ちゅらさんブーム”を巻き起こした。
その後も映画『るろうに剣心』シリーズなどで独自の映像世界を確立し、2025年9月には沖縄戦後の激動を描いた映画『宝島』が公開予定。再び沖縄に深く関わる中で、島の歴史や人々の優しさ、痛みと希望の記憶に触れ、「観光地としてだけではない沖縄」の姿を作品に込めた。
20年以上にわたり沖縄と向き合ってきた監督にとって、本土からの一歩外にあるこの島は、常に“視点を変える場所”であり続けている。
映画「宝島」2025年9月19日(金)公開!
『宝島』
原作:真藤順丈『宝島』(講談社文庫)
監督:大友啓史
出演:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太
配給:東映、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
9月19日(金)全国公開
©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会
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観光や連続テレビ小説「ちゅらさん」の撮影で沖縄には何度も来ていました。でも、毎回思うのは、「なぜこんなに人が優しいのか」「なぜこの島は、こんなにも僕たちを癒してくれるのか」ということ。その根っこにあるものを、どうしても知りたくなったんです。
沖縄が抱えてきた歴史、とくにアメリカ統治下の時代やコザ暴動などは、観光では見えにくい部分。でも、そこにこそこの島の“強さ”と“やさしさ”のルーツがあるんじゃないかと思っています。