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旅先から広がる地域とのつながり/
小さな町の共同売店を訪ねて

ETHICAL TRAVEL OKINAWA

沖縄三大大綱曳の一つ、与那原大綱曳が開催される与那原町。かつて港町として鉄道が走り、沖縄経済の大動脈として栄えた沖縄県で一番小さな町にはいま、昼と夜で営業スタイルを変え、自然と人が集い、活気に満ちた共同売店があります。

地域の魅力がぎゅっと詰まった「ミージマ共同売店」

そもそも共同売店とは、100年以上前に沖縄本島最北端の集落、国頭村奥で誕生しました。住民同士が出資し合って共同で設立・運営し、食品から生活雑貨、文具まで何でもそえ、沖縄の人々の暮らしを支え続けてきました。

2024年秋にオープンしたミージマ共同売店は、この店を出発点にみんなで地域を活性化し、後世に残したいとの思いから「共同売店」と名付けたそう。現在、店は食品や駄菓子販売のほか食堂も併設していて、昼はランチを提供し、夜は居酒屋として賑わっています。

ちなみに「ミージマ」とは地名のことで、「新島」と書いて「ミージマ」と読みます。

店がある親川(ウェーガー)通りやその周辺では1950年代から店舗が立ち並び始め、商業の中心地として発展しました。しかし、1990年代以降、大型店の進出や店主の高齢化、後継者不足によってシャッターを下ろす店が増え、徐々に人の流れが途絶えてしまいました。

代表の大木太平さんは、新島区の出身。幼少期から通りを利用していた一人です。

「自分の子どもをどこで育てたいかと考えた時、やっぱり地域とのつながりが残っているような場所がいいなと感じていました。地元の仲間たちとそのようなことを語り始めて、じゃあみんなでやろうよとなったことがミージマ共同売店を開店したきっかけです」

メンバーは、新島区で育った大木さんと友人らが中心。店は約50年以上マチヤグヮー(商店)として町の人たちの暮らしを支え続けてきた「伊集商店」の建物をリノベーション。2023年、地域を盛り上げる「ミージマ共同売店プロジェクト」が始まりました。

動き出した地域を活性化するプロジェクト

プロジェクトの第一歩は、2023年11月にアート展を開催したこと。大木さんたちの思いに共感した南城市出身の現代美術家・津波博美さんが企画。県内で活動するアーティスト8人が参加し、築70年以上の建物の雰囲気を活かした作品展示を行いました。

イベント期間中の来場者数は1週間でなんと700人超。

「『昔から見てきたこの場所で何をしているの?』と興味があったようで、地域の人が多く訪れ、『懐かしいね』という声をたくさん聞きました。ここはみんなの記憶に残っている場所で、自分たちの方向性は間違っていなかったと再確認できた。改めてこの場所で共同売店をオープンし、地域を活性化していこうと思ったんです」

イベント終了後、共同売店の開店に向けて建物のリノベーションが始まりました。

木材は地域の工務店からの提供で、工事現場で出た廃材を活用。梁や天井など建物の基礎となる部分は建築当時のまま。旧伊集商店で使われてきた古時計などは現在の店舗でも使用されていて、当時の雰囲気が伝わってきます。

「旧伊集商店の看板や、レジ上に置かれていた招き猫など、懐かしいものが出てくるたびに手を止めておしゃべりしていました。この場所に何を置こうとか妄想したり。完成までに約1年かかりましたが、とても楽しかったですね」

作業には、プロジェクトに関わる人たちを中心に近所の住民もボランティアで加わり、壁のペンキ塗りには地域の子どもたちも参加しました。世代や立場を超えてさまざまな人が集い、交流する場となったのです。

食堂と売店を併設。みんなが集う場所に

ミージマ共同売店のメインは食堂。おすすめメニューの「うぇーがー定食」は通り名にちなんで名付けられた一品で、沖縄そばと唐揚げ、ご飯がセットになっていて食べ応え満点です。

店舗奥は売店コーナー。駄菓子が販売され、放課後には近所の小学生たちが訪ねてきます。お小遣いをやりくりし、好きなお菓子をいくつ買えるか考える子どもたちの表情はまさに真剣そのもの。子どもたちと混じって駄菓子を選ぶ、なんて体験はまさにこの場所ならではです。

ショーケースに並ぶ刺し身は、その日取れた新鮮なものばかり。夕方には売り切れてしまうほどの人気商品で、この日はキハダマグロが販売されていました。

「漁師の後輩から将来刺身屋を出したいと相談があり、それなら共同売店のショーケースを貸すから、ここで販売したらと提案しました。一から店舗を構えるとなると、設備投資や家賃が必要なのでハードルが高い。この場所で商売の勉強をして、資金が貯まった時にここの通りで刺身屋を出店してくれたらうれしいですね。『地域を盛り上げたい』と思いを持った人たちを、僕らは全力で応援します」

夜の時間帯になると、お客さん自らお酒を作るセルフスタイルの居酒屋に変わります。来店客同士で自然と会話が生まれ、町の歴史や、昔の思い出話など地元の人ならではの話が出ることも。

「スタッフも知らない間にお客さん同士でコミュニティができていて、そこも面白さを感じています。地元のことは昔から住んできた人たちに聞くのが一番ですから。観光客の方にも、ミージマ共同売店で過ごす時間を楽しんでほしいですね」

新旧入り交じった、この店ならではの時間を

「新しいものと、古いものを融合させたかった」との大木さんたちの思いは、店内のいたるところに現れています。思い出深い旧伊集商店の看板は、カウンター席の真上に。そのほかにも、時計や招き猫など旧伊集商店で使われていたものが店内のあちこちにあります。どれも半世紀以上の歴史を感じさせ、木の温もりが残る店の雰囲気によく合います。

テーブル席の真上、一番目立つところに飾られた写真は、30年以上前に撮影された与那原町の伝統行事、与那原大綱曳の写真です。与那原大綱曳は沖縄3大綱曳の一つとされ、無病息災や五穀豊穣を願って、長さ90メートル、重さ5トンを超える大綱を曳き合います。綱の製作は町民総出で行われる、まさに一大行事です。

写真奥の沿岸部は現在では埋め立てられて住宅や商業施設が立ち並んでいるため、今では見ることのできない風景です。店内にある綱のミニチュアは、大木さんと新島区長さんの手作り。

「地域の活性化は、地道なことの積み重ねだと思っています。ミージマ共同売店に関わる人が少しずつ増えることで、人と人とがつながり、やがて大きなうねりになるはず。与那原大綱曳も同じで、子どもたちやおじーおばーも一緒に小さい綱を編んでいくことから始まり、それがどんどん太くなって、本番を迎えることができる。コツコツ続けていくことが大事だと、僕達は与那原大綱曳を通して知っているんです。」

地域文化に触れ、地元の人との交流を楽しみ、その土地の歴史を知る。ミージマ共同売店に一歩足を踏み入れると、ガイドブックとは少し違った、人々の暮らしに触れる観光体験ができ、旅に深みを与えてくれます。この場所を訪れることはもちろん、得られた経験をそれぞれが持ち帰り、誰かに話すこともきっと、新島区を応援することにつながるはず。与那原町に来たら、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

ミージマ共同売店
  • 住所:〒901-1303 沖縄県与那原町与那原584
  • TEL:098-955-3846
  • 営業時間:11:00〜15:00(昼の部)17:00〜23:00(夜の部)
掲載日:
2023.10.26
更新日:
2023.10.27

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