自然の美しさを守る、海の中の宝探し
ETHICAL TRAVEL OKINAWA
エメラルドブルーがどこまでも続く沖縄の海。ひとたび潜れば、サンゴ礁が一面に広がり、無数の熱帯魚が泳ぐ光景に誰もが心を奪われます。けれど、その美しさの裏で、海洋ゴミによる環境汚染が問題になっていることをご存じでしょうか。
海洋ゴミとは、海に漂流したり海岸に打ち上げられるゴミのこと。環境省によると、世界で年間800万トンの海洋ゴミが発生しており、その一部は日本からも流れ出していると言われています。また、沖縄県内の海岸には、年間2000〜4000トンのゴミが漂着していると考えられています(※)。その現実に向き合い、ダイビングとゴミ拾いを掛け合わせた「水中ゴミ拾い」を新しいマリンアクティビティとして展開しているのが、ダイビングショップ「Dr.blue」です。
(※ H22~26年度の調査結果によるもの。参考:環境省「近年における沖縄県の漂着ごみ対策」)
「海の美しさを守りたい」Dr.blueのはじまり
Dr.blueは、沖縄でも珍しい「水中ゴミ拾い」を専門とするダイビングショップ。ダイビングといえば、マスクやフィンなどの機材を装着して海中を自由に泳ぎ、海の世界を楽しむアクティビティですが、Dr.blueでは、美しい海の中を散策しながら海底に沈んだゴミを見つけ回収するダイビングツアーを開催しています。代表でインストラクターの東真七水(まなみ)さんは「水中ゴミ拾い」の可能性に魅せられた一人です。
「初めて沖縄でダイビングをしたとき、一瞬で海の中の美しい世界の虜になりました。それから海洋汚染に興味を持ち調べてみると、海洋ゴミのほとんどが私たちが暮らす陸上から発生していることを知り衝撃を受けました。人間が何気なく落としたゴミが風や雨に流されて海へたどり着き、プラスチックや袋ゴミを生き物が餌と間違えて食べてしまう。漁師や釣り人が海に流出させてしまった漁網や釣り糸は、生き物が絡まってしまう。人間が引き起こしたことが知らぬうちに海や海の生き物を苦しめている。その残酷さに心を痛めました」
ダイビングと出会うまで、環境問題に関わるきっかけがなかった東さんですが、美しい海に対して自分なりの恩返しができないかと日々模索。街のゴミ拾いやビーチクリーンなどさまざまなイベントに参加するようになり、辿り着いたのが水中ゴミ拾いでした。
「たまたま雑誌に掲載された水中ゴミ拾いの記事を目にして、これだ!と思いました。実際に海へ潜ってゴミを拾ってみると、海の中の景色に紛れるゴミを探す感覚が想像以上に面白かったんです。ボランティアとしてゴミ拾いをするのではなく、マリンアクティビティとしてゴミ拾いを楽しめば、結果的に海の環境が改善する。そのサイクルを作り出せるはずだと確信しました」
当時東京でOLとして働いていた東さんは沖縄へ移住し、2022年5月30日(ゴミゼロの日)にダイビングショップを立ち上げました。
まるで宝探し、海の中で行うゴミ拾いの魅力
水中ゴミ拾いには、地上で行うゴミ拾いにはない醍醐味があると話す東さん。
「海の中には、驚くようなゴミも落ちています。例えば、約40年前のビールの空き缶やレトロな瓶などといったレアなゴミのほか、江戸時代の通貨や、ショッピングカート、ブランドバッグなど、こんなものも?と思うようなゴミもあり、参加したお客さんと顔を見合わせることも。それらが、砂に埋もれていたり岩と同化したりして隠れているので、まるで宝探しをしているような感覚になるんです。夢中で拾っていると、全部合わせて十数キロ分ものゴミを回収していたこともあります」
それぞれでゴミを拾うだけでなく、参加者がタッグを組んで回収する点も水中ゴミ拾いの魅力です。言葉を交わすことができない海中でアイコンタクトや身振り手振りを駆使しながらサンゴに絡まった釣り糸や漁網を協力して取り外す。その達成感や喜びを共有できることも、水中ゴミ拾いの魅力なのかもしれません。
潜水地は本島中部から南部、時には離島ツアーまで幅広く、比較的拾いやすい初心者向けコースをはじめ、海底の砂が舞いやすい鉄人コース、珊瑚や岩の間に挟まったゴミが多い難関コースなど、難易度別にコースが設定されています。インストラクターがサポートしながら潜るので、ゴミ拾いダイビングが初めてという人でも体験できるのが魅力です。
海での体験を忘れない。思い出を刻むアップサイクル
Dr.blueの水中ゴミ拾いは、ダイビングのライセンス(※)を取得した人が参加できるものですが、そうでない人でも楽しめるメニューもあります。例えば、回収したさまざまなゴミを洗浄・粉砕して、オリジナルのキーホルダーやアクセサリーを作るアップサイクルコース。ビーチクリーンと合わせたコースもあるので、自分で拾ったゴミをアップサイクルする楽しさも味わえ、家族連れにも人気です。
(※ アドバンスドオープンウォーターダイバー以上のライセンスが必要です)
「世界に一つだけの可愛らしいキーホルダーに使われているのは、生き物を殺してしまうゴミ。手に取る度にツアーに参加した時の思い出や感情が蘇る、そんな大事な役割を担ってくれています」
海での経験を思い出として形に残すことで、海への思いを忘れずにいられるように。そんな思いが込められています。
一人の100歩より、100人の一歩
ゴミ拾いを始めた当初は、ただただ海を守るためだけに続けていたという東さんですが、今は少し違うのだと言います。
「それだけでなく、自分が楽しいからやっています。ツアーに参加するお客さんの中には、ゴミ拾いをしたことがない人がほとんどです。ゴミ拾いって、一人でやるには少し恥ずかしいですし、勇気のいることでもあります。だからこそハードルを下げて、ゴミ拾いをもっとカジュアルに捉えられる世の中になったらいいなと思うんです。ボランティアとしてやるのではなく、楽しいからやる。それが未来のために繋がるのだから素敵なことですよね。私一人で100歩進むより、みんなが一歩踏み出すことが未来を守る近道になる。そう信じています」
海の新しい楽しみ方が、未来の海を守る一歩につながる。そんな東さんの思いが、沖縄から静かに広がっています。