人と人をつなげる
コミュニケーションツールとしてのビールづくり
ETHICAL TRAVEL OKINAWA
地域特産品を使った「地域密着型マイクロブルワリー」のビールが注目を集めています。また、味だけでなく、サスティナビリティを意識したビールづくりもトレンドです。
沖縄市の「CLIFF GARO BREWING(クリフ・ガロ・ブルーイング)」では、店主の宮城クリフさんが、ホワイトエール、ペールエール、セゾンなど、フルーティーで香りが豊かなエールスタイルを中心にビールをつくっています。素材には、サトウキビやパイナップル、ドラゴンフルーツなど県産素材を使用。
グラスに注ぐとふわりと広がる果実の香り。ひと口含めば、軽やかな甘みや心地よい苦みが広がり、瓶ごとに異なる色合いや個性を楽しめます。沖縄の素材の豊かな香りや風味をそのまま閉じ込めたような一杯です。
クリフさんがビールづくりに興味を持ったきっかけは、イギリス・ウェールズで出合った伝統的なビール、リアルエールでした。濃厚な香りとコクを持ち、常温で味わう炭酸の弱いビールで、木樽の中でゆっくり熟成させる独特の製法が印象的だったそうです。
「当時はラガーが主流となり、リアルエールは少しずつ姿を消しつつありましたが、自分たちが親しんできたビールを守ろうと、作り続けている人がいました。地域ごとに開かれるイベントでは、自家製のリアルビールを持ち寄って楽しんでいました。そんな光景を見てビールは酔うためのものではなく、人と人をつなぐものだと感じてビールづくりに興味がわいたんです」
沖縄の素材でつくる、島のビール
故郷の沖縄に戻ってから、本格的にビールづくりを始めたクリフさんは、沖縄の気候や人々の嗜好に合うビールを試行錯誤。
「沖縄のように暑く湿度の高い場所では、冷たくて喉ごしの良いビールを求める人が多い。そこで『沖縄らしいビールって何だろう』と考えていたときに、県産小麦の生産に力を入れている農家さんと出会い、沖縄の素材を使ったビールづくりに挑戦したのがスタートです」
沖縄の暑さの中でも心地よく飲める一杯を。そんな思いからクリフさんが最初に選んだのは、やさしい口当たりが特徴の「ホワイトエール」でした。主原料の小麦だけではなく、香り付けに使用したコリアンダーも県産にこだわっています。
「かなさんホワイト」と名付けたこのホワイトエールは、多くの人から好評を得て、のちに「カミータイラー」へと名前を変え、現在は定番商品として親しまれています。
その後も、クリフさんは沖縄の素材を使ったビールづくりを続けています。甘みたっぷりのやんばる産パイナップルをたっぷり使ったIPAのパイナップル ディガーは香りが豊か。他にも時季によってはイチゴやドラゴンフルーツなど、県内各地の作物を使った限定ビールを次々と開発。それぞれの素材が持つ香りや酸味、色合いを生かすことで、季節ごとに違った味わいを楽しめるのが魅力です。
「畑を訪ねて、生産者さんと直接話しながらアイデアを膨らませる時間が好きなんです。『この果実ならどんな香りになるだろう』『次はこれを試してみよう』と、一緒に考えるのが楽しい。僕にとってビールは、コミュニケーションツールのようなものなんですよね」
旅先で地産地消のビールと料理を味わう
2025年、クリフさんは沖縄市に新たな拠点「CLIFF GARO EATERY(クリフ・ガロ・イータリー)」をオープンしました。 醸造所に併設されたダイニングでは、常時7.8種類ほどの自家製ビールとともに、地元の食材を使った料理を提供。ビールづくりを通して出会った生産者の野菜や果物を料理にも取り入れ、「飲む」だけでなく「食べる」ことを通して、地域の味の魅力を伝えています。
さらに、ビール製造の過程で出る麦芽の搾りかすは農家の畑で堆肥として再利用し、その堆肥で育った作物を料理に使うなど、資源を循環させるサスティナブルなスタイルを実践しています。
ビールは、ものづくりを知る学びの入り口
最近では、小学生を対象にした体験講座など、子どもたちの学びの場づくりにも取り組んでいるというクリフさん。ビール工場の見学から、タイミングがあえばビールに使用する素材を一緒に収穫することもあるそうです。
「ビールって、子どもたちには“おとなの飲み物”という印象しかないと思うんです。でも、身近にある沖縄の作物が使われていることを知ることで、ビールづくりに興味を持ってもらえたらうれしい。種をまくところから液体のビールになるまで、どれだけ多くの人が関わっているかを知るだけで、世界の見え方は変わると思うんですよね」と、ビールを通した食育にも力を入れています。
そうした体験によって、親子の会話が生まれたり、参加者同士がつながる出会いのきっかけになってくれたらうれしいと話します。
沖縄でビールづくりを始めて8年。クリフさんがずっと大切にしているのは、ビールを通して、人と人がつながること。
「僕にとってビールは、コミュニケーションツールとして欠かせない存在。これからも生産者さんとのつながりを大切にしながら、沖縄らしいビールをつくり続けていきたいと思います」